作品情報
編訳者 | 倉阪鬼一郎 / 南条竹則 / 西崎憲 |
レビュー | 3.9 |
発行日 | 2006/08/31 |
総ページ数 | 282 |
ふるかわ
寓話、心霊、怪異、精神異常、趣の異なるバラエティーに富んだお話。
目利きの編者が選出した12作品!
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【淑やかな悪夢 】あらすじ|作家|感想|ネタバレなし
- 追われる女(1947)
ミード夫人は心臓の具合がかんばしくなく、入院して3週間が経とうとしている。
夫人は体調不良の原因として「ある男」の存在を明かす。
シンシア・アスキス(英 1887-1960)
英国首相ハーバート・アスキスの次男と結婚。
広い交友関係を利用し複数の作家の短編を集めたアンソロジー本の出版を手掛ける。
ことに初期のアンソロジー本の評価は高い。「追われる女」は1947年発表。「西崎憲」訳。
[感想]
冒頭1ページ目でラストがわかるまさかのお話。(日本の有名な昔話と同じだったのでわかってしまった…。)
男は夫人の潜在意識に訴える恐ろしさがあり、それは口では説明が難しいそう。
男の恐ろしさと追ってくる理由がわからないので読む方としては冷めたままでラストを迎えました。 - 空地(1903)
25,000ドルで建てられた家を5,000ドルという破格の値引き価格で手に入れたタウンゼント一家。
何かウラがあるはず。家の立地、水回りを含めた屋内も調べるが全く問題なし。
しかし、女中が隣の空き地で「あるもの」を見てから、次々と怪現象に見舞われる。
メアリ・E・ウィルキンズ-フリーマン(米 1852-1930)
ニュー・イングランドを舞台としたリアリズム小説を得手とする作家。
怪談はさほど多くない。「空地」の発表は1903年。「倉阪鬼一郎」訳。
[感想]
まず、昔の人はこの程度のことが怖いの?と思ったがどうやら
「この程度のことで大げさに右往左往する人たち」を描いたコミカルな作品。と受け止めれば良いのか?な?
オチも説得力を感じなかった。 - 告解室にて(1871)
ヨーロッパを気まぐれに旅する30代の男。彼がライン川近くの田舎町を訪れたときの話。
何の気なしに教会の告解室を除くと、目に獣のような光を湛え、血が失せ蒼ざめた司祭の姿があった!?
後ずさりし、その場を後にする男。町の宿にたどり着くと、
かつて起こった、司祭に関わる残酷な事件について知ることになる。
アメリア・B・エドワーズ(英 1831-1892)
怪奇小説家・エジプト学者・旅行家。
「告解室にて」の発表は1871年。「倉阪鬼一郎」訳。
[感想]
ちょっと好奇心を持っただけなのに、主人公の男はかなり血なまぐさいゴシップを聞いてしまう。
そのゴシップ自体も面白いが終盤にかけ事件の見え方が変わる仕掛けが用意されており、
残虐さ、推理要素ともに大変満足できる作品。 - 黄色い壁紙(1892)
私のことを心配した夫は療養のために、夏の休暇の期間、ある屋敷を借りた。
陶然とするような趣のある屋敷を私たちのような普通の夫婦が借りれるなんて幸運だった―。
夫は妻を休ませるため、寝食以外のあらゆることを禁じる。
一室に軟禁状態の妻は部屋の壁紙の色、模様を覚醒している間中、見続け気を紛らわせる。
夫が押し付ける優しさに憔悴した心を壁紙の模様は歪ませていく。
シャーロット・パーキンズ・ギルマン(米 1860-1935)
フェミニズム運動家。「黄色い壁紙」の発表は1892年。
自身や当時の米国における女性への抑圧の抗議として執筆した。
ボストンのある医師は「こんな小説は書かれるべきではなかった。
読んだものが誰であれ、正気を失わせること間違いなしだ。」と述べたそう。
今もなお色あせない傑作。「西崎憲」訳。
[感想]
かなり有名なようで気になっていた作品。
なるほどこれはページ数がもう少し多ければ精神が危うかったかもしれない。
著者の無事が心配だったが、危うい状態を経験した後の執筆だったとのことでひとまず安心(?)した。
それにしても読後から主人公の女性のように行動したいという欲求が頭をかすめるようになっている。 - 名誉の幽霊(1961)
パトリクス夫妻の屋敷に招かれたロバートソン。なんと屋敷には以前の住人が霊として姿を現すという。
生活に支障はないと語る夫妻。楽しい晩餐が過ぎ、客室で休んでいるロバートソンの前に霊が現れる。
平静を装いやり過ごそうとするが…。
パメラ・ハンスフォード・ジョンソン(英 1912-1981)
作家。「名誉の幽霊」はアンソロジー「Spine Chirres」(1961)から採った。「南条竹則」訳。
[感想]
幽霊と平気で暮らしているという以外は特に変哲のない夫婦。
この話自体が読者に何を感じ取ってほしいのか、そういった意図のようなものが見当たらず
私は迷子のように困惑しながら読んでいた。しかし、なるほどこのオチを言いたかったのかと個人的に納得。
後に、ふと、オチに至るまでの道のりも無駄な文章ではないと気付く。
もしかしたら、夫婦は呑気に構えている場合じゃないのかもしれない。 - 証拠の性質(発表年の記載なし)
「もし、私が先に死んだら、あなたがそのあと一人寂しく暮らすなんて考えるのも嫌。再婚していただきたいわ。」
妻のロザモンドが亡くなって1年後、マーストンはかつての妻の意に従い、再婚した。
しかし、ロザモンドの面影がことあるごとに新婚生活を妨害する。
メイ・シンクレア(英 1863-1946)
他作品は「胸の火は消えず」(2014年 メイ・シンクレアの短編11作品を所収)で見られる。「南条竹則」訳。
[感想]
理解ある妻を演じておいて、後妻に嫉妬するところがかわいい。といったところだろうか。
恐怖要素は無し。特にストーリーとしての面白みも感じなかった。 - 蛇岩(1886)
荒涼とした海沿いの土地にそびえ立つ古城。そこには母と娘、たった二人が静かに暮らしていた。
遠方に足を向けることはなく、常に母に見張られる日々を窮屈に感じていた娘。
唯一の気晴らしは海を泳いだり、大岩「蛇岩」に腰掛け景色を眺めること。
いつものように泳いでいたとき、霧が発生し岸の方向が分からなくなる。
そこに一人の男性が現れ、彼女を救い、二人は恋に落ちる。
ディルク夫人(英 1840-1904)
仄暗く、救いのない結末の短編を手掛ける。「蛇岩」の発表は1886年。「西崎憲」訳。
[感想]
海辺の古城に触れてはならない秘密が漂っている感じが舞台としては最高なのですが、
お母様が何を考えているのかがわからず、気がふれているにしてもそこに至る経緯も不明瞭。
そんな中、ショッキングなシーンを用意してくれても、そのシーンに見合う衝撃を感じないので残念な気持ち。
オチもついてまとまってはいる分、余計に惜しい気持ちがある。 - 冷たい抱擁(1867)
芸術家の若い青年とその恋人は激しく愛し合っていた。
しかし、彼女を残し画家修業に向かった男の女への愛は次第に冷めていった。
男を想い続ける女に裕福な求婚者が現れ結婚の準備が進む。
他の男との結婚など考えられない!愛を貫き通す彼女の元に想い人は帰ってこず、結婚当日を迎える。
メアリ・E・ブラッドン(英 1835-1915)
19世紀イギリスの人気作家。
「冷たい抱擁」は1867年発表。「倉阪鬼一郎」訳。
[感想]
詩人並みに彼女への愛を語っていたのに、別の土地に来たとたん速攻で冷める薄情さに笑った。
男に待ち受ける結末に興味津々のまま、軽薄男にぴったりの面白い最後が用意されている。良かった。 - 荒地道の事件(発表年不明瞭)
日が暮れ、荒地道を通り帰宅する若者は、病気の牛がするような咳が聴こえたかと思うと
長身で頭部の小さな、なんとも異様な人間を見かける。歩を進めると
突然、背中の一点に万力で挟まれたような衝撃があったという。若者は何とか逃げ切れたが、
以降、若者以外にも荒地道を通った住民が変な咳の声を聴いている。
心霊探偵フラックスマン・ローは被害を防ぐべく調査に乗り出す。
E & H ・ヘロン(英1851-1935)
「E・ヘロンとH・ヘロン」はプリチャード母子が共作する際に用いた筆名。
息子のヘスキスはクリケット選手・狩猟家・探検家として著名。
「荒地道の事件」は「心霊探偵フラックスマン・ロー」シリーズの一つ。「西崎憲」訳。
[感想]
「病気の牛がするような咳」がわからないのが残念!人間離れした怪力と歪な容姿ということで
誰がみても恐怖の対象となり得るキャラクターだと思う。
ちょっぴり都合がいいかなと感じたところはあったがストーリーとしてもまとまっている。 - 故障(発表年の記載なし)
「ジョン」はクリスマス・イヴを友人宅で過ごすため、鉄道に乗って移動していたが
鉄道は故障し立ち往生してしまった。残りの道のりを徒歩で向かおうとするジョン。
寒風吹きすさぶ暗闇の中、子供の頃、友人宅で一目ぼれした「マリー」という娘の自画像のことを思い浮かべる。
彼女に会える(自画像を見られる)喜びで自身を奮い立たたせるジョンだが、
天候が傾き始め、みぞれ混じりの風が吹きつける。遭難しかけたとき「願望荘」という看板を掲げた宿を見つけ、
暖をとらせてもらう。そこにはもう一人の客人として憧れの「マリー」の姿があった。
マージョリー・ボウエン(英 1886-1952)
マージョリー・ボウエンはミセス・ガブリエル・マーガレット・ヴィア・ロングの数多い筆名の一つ。
生涯に150冊もの小説を書いた。「故障」は「倉阪鬼一郎」訳。
[感想]
夜の鉄道、吹きすさぶ雪、暖炉、この世ならざる美女。かなり幻想的な美しい絵本のような舞台。
彼女を襲った悲劇がストーリーをより耽美にさせていると思う。きれいにまとまっている話。 - 郊外の妖精物語(1924)
丸々と太った夫婦が暖かい部屋で豊かな朝食を囲んでいる。
か細く小さなひとり息子は食卓の窓から凍った芝生に降り立ち跳ね回る雀の群れを眺めていた。
すると、雀たちはむくむくと膨れ上がり…!?
キャサリン・マンスフィールド(ニュージーランド 1888-1923)
作家。9歳にして書いた小説が出版物に掲載される。
永い間、病弱でありながら精力的に小説を書き続け1920年に成功を掴むも
ほどなくして、肺疾患による出血のため、34歳という若さで息をひきとる。
「郊外の妖精物語」は1924発表。「西崎憲」訳。
[感想]
おそらく、当時の社会を風刺した話なのだろう。貧困層が存在していないかのように振る舞い、
豊かな生活を送る富裕層。夫婦の息子として成長不良の子を登場させ過保護に育てているのは、
世の飢えた子供たちは見て見ぬふりなのに、自分たちの子には優しくできるんだね…といったメッセージでしょうか。
ラストはどういうことかわからなかった。奇妙なテイストのショートフィルムのような作品。 - 宿無しサンディ(1882)
牧師は美しい夏の夕暮れに川のほとりを歩いている…そんな夢を見た。牧師はずんずん歩いて行く。
すると、道の真ん中に刃物を持った男が立っている。牧師が立っているのは男の土地であり、
許可なく立ち入った者には罰として恐ろしい責め苦を受けさせるという。
しかし、身代わりをよこせば牧師を見逃さないでもない。
恐怖から逃れたいあまり、牧師の脳裏には不信心者の男「サンディ」の姿が浮かぶ。
リデル夫人(北アイルランド 1832-1906)
怪談も精力的に執筆した作家。評価も高いが日本ではあまり紹介が進んでいない。
「宿無しサンディ」は短編集「Weird Stories」(1882)に所収。「倉阪鬼一郎」訳。
[感想]
人に優劣をつけたこと、身代わりに差し出したこと。聖職者であることで他者よりもこの事実が重くのしかかる。
非常に面白みのある作品。要所要所、少し長いなと感じることはあった。
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