
作品情報
編者 | 中村融(とおる) |
レビュー | 3.5 |
発行日 | 2007/9/28 |
総ページ数 | 381 |

1920~60年代に発表された英米のモンスター短編を集めたアンソロジー。
収録「アウター砂州に打ちあげられたもの」に感動した。
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【千の脚を持つ男】あらすじ|作家|感想|ネタバレなし
モンスター小説の秀作を集めた日本オリジナル編集のアンソロジー。
収録作全10篇の内、初めて日本語に訳された作品が5編。
残り5編の内3篇が20年ぶりの新訳。内2編は定番の名作。
- 沼の怪(1953)[モンスタータイプ:スライム]
古より海の底で息づいていた「それ」は海底火山の噴火により打ち上げられ、
小さな町の近くに広がる沼地に姿を隠す。沼では不審な失踪事件が相次ぎ、警察が捜査に乗りだす。
ジョゼフ・ペイン・ブレナン(米 1918-1990)
1952年デビューの作家・詩人・図書館司書。
「沼の怪」は1953年発表の初期の代表作。2種の既訳あるも本編は「市田泉」の新訳。
[感想]
異変を感じた住人が警察に訴えるも取り合ってもらえない、、、といった王道のストーリー展開。
モンスターの描写も丁寧に描かれているが、もう少し驚きが欲しい。 - 妖虫(1930)[モンスタータイプ:巨大虫]
人を避け、一族が代々受け継いできた堅固な石造りの家に一人で暮らす年老いたの男「ジョン」。
厳寒の時期を迎えようとするころ、地下室で次第に大きくなる地響きと物音に悩まされるようになる。
デイヴィッド・H・ケラー (米 1880-1966)
1928年デビューの作家・精神分析医。
「妖虫」は1930年発表。邦訳済の短編集「アンダーウッドの怪」(1952)に収録されている。
本編は「中村融」の新訳。
[感想]
ジョンは一匹の犬と暮らしてるんですが、犬のためにも何とか逃げてほしかった。
ハッピーエンドVer.でも面白くなると思う。こんな死に方は嫌だランク上位に食い込むラスト。 - アウター砂州に打ちあげられたもの(1947)[モンスタータイプ:???(あえて伏せます)]
巨大地震に見舞われたノースカロライナ州沿岸では打ち上げられた漂着物が放つ悪臭と濃い霧に包まれていた。
そんな中、何万ものカモメに群がられる、鯨よりもはるかに大きな「何か」が海上に漂っており
近隣住民は正体を確認すべく船を漕ぎ出す。
P・スカイラー・ミラー (米 1912-1974)
1930年デビューの作家・批評家・理学修士修了。
「アウター砂州に打ちあげられたもの」は1947年発表。「中村融」により本邦初訳。
代表作…タイムパラドックスの古典「存在の環(わ)」(1944)
不定形の怪物を題材にした「卵」(1939発表。アンソロジー本「キング・コングのライヴァルたち」所収。)
[感想]
霧と悪臭でど~んよりした港町。本だから匂い伝わんなくて助かったー。
普通に呼吸できる喜びを再認しながら読み進めると肩を寄せ合って悪だくみする隠居爺さんたちが現れる。
久々のイベントに胸をときめかせ我先に巨大漂流物を拝みに船を走らせるおじいちゃんたちが微笑ましく、
こちらのテンションもぐんぐん上がる。
漂流物の正体には驚かされた。
目の当たりにしたおじいちゃんたちのリアクションや、漂流物の傷み具合、ダイナミックさを
豊かな筆致で表現されており、大変刺激的な疑似体験ができた。かなり大好きな作品。 - それ (1940)[モンスタータイプ:ゴーレム]
ふいに目覚めた「それ」は森の中をあてもなく徘徊していた。
恐怖も喜びも持ち合わせず、あるのはリスを握りつぶしたときに感じた知的探求心のみ。
そんな「それ」の前に猟犬が現れ―。 猟師は帰ってこない猟犬を探しに夜の森に分け入るのだった。
シオドア・スタージョン (米 1918-1985)
1938年デビューのSF・ファンタジーの巨匠。
「それ」は1940年最初期の作品。2種類の既訳あるが本編は「中村融」による新訳。
代表作…長編「夢見る宝石」(1950)
長編「ヴィーナス・プラスX」(1960)
中編「きみの血を」(1961)
短編集「時間のかかる彫刻」(1970)
短編集「不思議のひと触れ」(2003)
日本独自で編さんされた傑作短編集「海を失った男」(2003)
短編集「輝く断片」(2005)
[感想]
探求心のみで動く怪物が人間の想定を超える行動を見せてくれることを期待したが驚きは無し。
ストーリーも怪物の移動速度と同じく緩慢。最後の種明かしも、説得力が欲しかったな。
でも巨匠の作品は面白いはずだから私の理解が驚くほど及んでいないだけ、かもしれない。
読み直して別の感想を抱ける日が来るといいな。 - 千の脚を持つ男(1927)[モンスタータイプ:半人の異形]
若き天才科学者「アーサー」はエーテル振動に関する自身の理論を証明するため
自らを実験台にした。体に起こる異変は徐々に制御できないものとなり
「アーサー」は人知を超えた異形へと姿を変える。
フランク・ベルナップ・ロング (米 1903-1994)
1924年デビューの怪奇小説家。
「千の脚を持つ男」は1927年発表。既訳あるが本編は「中村融」による新訳。
代表作…「海の大蛭」(1925)「脳を喰う怪物」(1932)
クトゥルー神話の短編「ティンダロスの猟犬」(1929年 創元SF文庫のアンソロジー「マッド・サイエンティスト(1982)」所収)
[感想]
腑に落ちないことがあるままで、せっかく怖がらせようとはしてくれているんだけど残念ながらの平常心。
アーサーはせっかく精神にも異常をきたした怪物なのだから関わる人には「危ない!気を付けてっ!?」
って思いながら緊張感を持って読みたいところ。惜しい気持ちもありストレスを感じながら読んだ。辛かった。 - アパートの住人(1960)[モンスタータイプ:???(謎。低身長/俊敏/鉤爪あり)]
退去命令を無視し続ける老人「ミセス・ウォルデック」。
謎の多い彼女の身辺調査を命じられた男「エジェル」は忍び込んだ彼女の自室で
異様な光景を目の当たりにする。
アヴラム・デイヴィッドスン (米 1923-1993)
1954年デビューの作家・編集者。
「アパートの住人」は1960年発表。
50年代末のニューヨークのスラム街をモデルに描かれた。「中村融」による本邦初訳。
他作品は日本独自で編さんされた傑作集「どんがらがん」(2005年)で見られる。
[感想]
ラストに満を持して怪物が登場。何で居るのかわからなかった。 - 船から落ちた男(1960)[モンスタータイプ:大海蛇(シーサーペント)]
「大海蛇(シーサーペント)」を見つけるという夢を持つ資産家の「グレンウェイ」。
目撃情報から生息域や特性を考え、自身のクルーザーヨットで漕ぎ出す、道楽を超えた真剣な探索だ。
そんな航海の折、寄港した島で「ガイセカー」という男を拾うが、
グレンウェイの航海の目的を知ったこの男は船上で毎日のようにグレンウェイをからかい、追い回す。
ある夜、鬼気迫ったようなガイセカーの悲鳴が響き…。
ジョン・コリア (英 1901-1980)
「船から落ちた男」は1960年発表。「中村融・井上知」による新訳。
代表作…長編「モンキー・ワイフ」(1930)
短編集「炎の中の絵」(1958年 UMA小説の秀作「ある湖の出来事」を所収)
日本独自の編さん傑作集多数。
[感想]
ガイセカーの最後については「いい気味」と思うのが正しいのかもしれない。
しかし、出会った当初から精神異常を心配する気持ちは湧くも同じ人間として見れず、ムカつく対象にならなかった。月夜に照らされる巨大海洋生物のシルエットは畏怖を感じることができた。 - 獲物を求めて(1969)[モンスタータイプ:細い吸虫]
冷え込む夜の玄関先で、得体のしれない何かに生命力を吸われたことを感じたジェイン。
夫に説明するも理解は得られず、怯えたままベットに入った。一方、ジェインの家に忍び込んだ「何か」は
引き続きジェインを狙い、寝室に近づくのであった。
R・チェットウィンド=ヘイズ (英 1919-2001)
怪奇小説家。「獲物を求めて」は1969年発表。「市田泉」による本邦初訳。
邦訳済の作品は短編「創造主」のみ(1978年 短編集「フランケンシュタイン伝説」所収)
英米では1960年代からホラーシーンの一翼を担う作家として尊敬を集めた。
[感想]
自分の感が警鐘を鳴らしていたでしょうが。悲劇を避けようと思えば避けられたのではないか…。
呑気にしてるからこんなことになるんだよ。恐怖、緊張感、同情感じず。 - お人好し(1953)[モンスタータイプ:蜘蛛]
蜘蛛の収集家である夫の部屋を掃除していた妻のリディア。
グロテスクなコレクションを不快な心持ちで眺めていると、1つの鐘形のガラス器に目がとまった。
ガラス器の中には世にも美しい生体の蜘蛛が閉じ込められていて…。
ジョン・ウィンダム (英 1903-1969)
小説家。1950年代、ホラーSF隆盛の立て役者の一人。
「お人好し」は1953年発表。「中村融・原田孝之」による本邦初訳。
代表作…斬新な怪物が人類を滅亡に追い込む「トリフィド時代」(1951)と「海竜めざめる」(1953)
[感想]
繊細なレースに佇む蜘蛛。うっとりするほど美しい情景と寓話のようなストーリー展開のダークファンタジー。
多くの人間がそうであるように私もリディアと同じものが大好き。
その大好きなものに囲まれていることを考えると、よ、よだれが…へへ。 - スカーレット・レイディ(1966)[モンスタータイプ:車]
「ビル」の経営する自動車修理工場に、目の覚めるような朱色の美しいセダンが乗り付けられた。
運転席から降りてきたのは弟の「ジャッキー」。
この瞬間から血に飢えたレイディに翻弄される毎日が始まるのであった。
キース・ロバーツ (英 1935-2000)
SF作家。1964年のデビュー以来、英国の風土に密着した作品を書き続ける。
「スカーレット・レイディ」は1966年発表。「中村融」による本邦初訳。
代表作…「パヴァーヌ」(1968)
[感想]
レイディの性悪さは一部の人間にはかなり魅力的に映ると思う。最後まで気を抜けない緊張感は良かった。
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