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衝撃作!岩井志麻子「ぼっけえ、きょうてえ」あらすじ感想ネタバレなし

「ぼっけえ、きょうてえ」の表紙画

作品紹介

作者岩井志麻子
レビュー3.8
発行日2002/07/10
総ページ数203
受賞歴第13回山本周五郎賞 
第6回日本ホラー小説大賞大賞受賞
ふるかわ

表題作「ぼっけえ、きょうてえ」のほか、痩せた村や漁村が舞台の
異なるストーリーを3話収録。
口減らし、村八分など衝撃的なことが
淡々と語られるギャップに「ぞっ」としますわ。
不幸と陰湿にどっぷりつかれるホラーじゃけ。

(本ページはプロモーションが含まれています)

>> 「ぼっけえ、きょうてえ」を朗読版で聴いてみる

岩井志麻子「ぼっけえ、きょうてえ」あらすじ感想ネタバレなし【4話収録】

岩井志麻子作「ぼっけえ、きょうてえ」には、表題作「ぼっけえ、きょうてえ」のほか以下の4作品が収録されています。

ぼっけえ、きょうてえ収録作品【4話】
ふるかわ

4作品のあらすじ・感想をネタバレなしでご紹介!

①:ぼっけえ、きょうてえ

艶のある奇形おねえさんがしっとり語る驚愕の寝物語。

[あらすじ]
醜い女郎が、寝付かれぬ客に身の上を語る。
想像を絶する貧しい暮らしぶりと、故に起こる残酷な出来事…。
「これは…いや、やめとこう。」
女郎は話を終わらせようとするが、続きを話すよう催促することで
客は二度と日常に戻れないほどの不幸に見舞われる。

[感想|ネタバレなし]
方言を聞くのが珍しくて面白いですし女郎の語り口に夢中になります。しかも、色っぽい。
冒頭から、お話が悲惨すぎて「うわー…」と口をあんぐりしながら
最後には「えっ!?」と、まさに衝撃の告白をされ
お話の中の「客」じゃなくて良かった~。昨日と変わらない日常を送れるありがたみを感じました。
対岸の火事を体験でき、驚きと恐怖、そして切なさが余韻として残ります。

ちなみに、「ぼっけえ、きょうてえ」とは、岡山地方の方言で「とても、怖い」の意味ですよ。

②:密告箱

心に巣喰う欲望が肥大し理性を飲み込む。自ら地獄に真っ逆さまの自業自得ホラー。

[あらすじ]
虎列刺(コレラ)蔓延に怯える明治三十四年(1901年)の日本。
蝉のけたたましい声が響く岡山のある村にも悪疫の影が忍び寄っていた。

虎列刺特有の症状をみせる者を発見すれば、その同居人含め施設で隔離するのが蔓延防止の最善策だが、
当時は「生き血を抜く」と噂された隔離施設に行くことを患者は強く拒まみ、人は家族の発症を隠した。
また、罹患者発見を報告すれば、小さな村で報告者を特定することは容易い。
報告者は罹患者とその家族に強い恨みを抱かれ、村で生きづらくなるだろう。
そのため、疑わしい者がいても見て見ぬふりをしてやり過ごされていた。
しかし、村としては蔓延防止に努めたい。そこで考案されたのが匿名で疑いのある罹患者を報告できる『密告箱』だ。

密告箱には設置翌日から匿名の投函が見られた。投函された紙に書かれた者の元に実際に様子を見に行く役目は
役場の最年少であり影の薄い主人公「片山弘三」に押し付けられた。
拒否する度胸もない片山は、疑わしき患者の元を訊ね歩き、心身共に疲労を蓄積させていく。
そんな片山を支えたのは献身的な良妻と、村に流れ着いた拝み屋夫婦の娘「お咲」の存在であった。

性に奔放なお咲を恨む者は多く、虎列刺の症状がみられるか否かに関わらず、
嫌がらせ目的と思われる「お咲」と書かれた紙の密告箱への投函が後を絶たなかった。
片山は罹患疑いのある者の巡回を名目にお咲の元に向かい、白く柔らかい肌を貪る日を夢見て胸を高鳴らせるのであった。

[感想|ネタバレなし]
炎天下に放たれる患者の吐しゃ物の襲い来る臭気と、押し寄せる熱気に包まれる不快感。
そこに、単調な日々を送る鬱屈・身勝手な欲望をたぎらせた片山、
献身を仇で返され憎悪を膨らませる妻etc…も混ざりゴポゴポと泡立つ汚泥が如き闇を見ているような感覚。
突き抜けた陰惨さも堪能できる見どころが多い作品。

③:あまぞわい

これこそ、結婚は人生の墓場。
言い伝え級の不幸女が手招く閉鎖的な漁村ホラー。

[あらすじ]
「あまぞわい」とは岡山県長浜村と瀬戸内海にある竹内島の間にある洞窟のある岩山を指す。
「そわい」は潮が引いたときにだけ現れる岩山や砂浜のこと。「あま」はある言い伝えに登場する海女(あま)に由来する。

昔、竹内島のある男が漁の最中に懐の包丁を誤って海に落とした。
すると、鉄物(かなもの)を嫌う海の神の怒りに触れ、時化と不漁が続き、
洞窟のあるそわいの奥からは鉄さびのいやな臭いが漂い、浜辺の昆布や貝も腐った。
張本人の男はといえば、神の祟りか足腰が立たず、立って歩けなくなっていた。
村人たちに落とした包丁を取りに行けと言われ、代わりに海女をしている妻が海に向かう。
その後、妻が浮かんでくることはなかったが、そわいには一本の包丁が流れ着いていたという。

そして、「あまぞわい」の「あま」には「海女」であるという説とは別にもう一つ、別の意味と言い伝えがある。
その意味と言い伝えの内容は主人公「ユミ」の物語が進む中で明かされる。

岡山で酌婦をしていたユミは竹内島の漁師「錦蔵(きんぞう)」に見初められる。
最初は武骨な田舎者と敬遠していたが、何度も店に顔を出す姿にほだされた末に嫁ぎ、竹内島にやってきた。
しかし、ユミを待ち受けていたのは苦しく孤独な結婚生活であった。ユミは魚を捌けず、網も引けなかった。
もともと排他的な漁村で、なんの役にも立たない彼女は疎まれ、錦蔵の心も離れていき孤独を深めることとなる。

ひとり、砂浜に佇み、かつて美しかった肌と髪が陽に焼けたさまを嘆き、
昨夜自分を殴り、蹴り、張り倒した夫が乗る船の帰りを待つ。
船の影が見えないので家に引き返そうと振り返りかけ、足に異様な感触を覚えた。
確かに焼け付く砂に立っていたはずなのに、今ユミの足元にあるのは冷え切った岩場なのだ。
動転したユミだが、気づくと再び元の砂浜に倒れており、そこには心配そうに寄り添う男の姿があった。
その男は島の網元の息子だが左足の発育不全から漁師にはなれず、教師をしている恵二郎であった。

ユミと恵二郎は互いに惹かれ合う。そしてその後も前触れなく岩場は現れる。まるで不幸な運命を予兆するかのように。

[感想|ネタバレなし]
この島でのはみ出し者に対する扱いがハードモード過ぎる。逃げ場もないし夫は短慮で粗暴な男だし、
気の毒に思ってくれるような人もいないし、主人公「ユミ」の不幸体質もあいまって未来に希望がない。
もう一つの言い伝えも「ひどい話だなぁ」と、その分、岩場に取り残された「あま」の悲しみと恐怖はいかばかりかと。
海からのぞく洞窟の冷たさ、言い伝えの救いのなさが染み入る。

④:よって件の如し

生きるのが辛すぎる。口にしない思いは少女の目に猛る物の怪の姿として映った。
不道徳と貧しさに蝕まれる、沈鬱な寒村ホラー。

[あらすじ]
「件(くだん)」とは、頭が牛、体が人間の化け物のこと。

明治半ば、痩せた土地にある村で、七歳の「シズ」と一回り年の離れた兄「利吉」は二人きりで暮らしていた。
子供ながらに朝早くから日が暮れるまで村の畑仕事を懸命にこなすが村人たちからは冷遇されていた。
二人の母が奇矯なふるまいの果てに首を切って死んだ者だからだ。
シズは時折、家の中や働く兄のそばで真っ黒な牛の頭を持つ影をみかけ恐怖に身を固めていた。

まだ幼いシズだが、兄は清との戦争のために、村の由次一家にシズを預け出兵する。
シズは人として扱われることはなかったが雨風はしのげる牛小屋で生活することになる。

出兵した男たちが帰ってくる頃、由次一家は男に襲撃され惨殺される。
シズは生き残り、事件から1年後、兄の利吉が帰ってくる。
利吉はあちこちで始まった鉄道工事の出稼ぎに精を出し二人の暮らしも豊かになっていった。
シズの顔にも笑顔が浮かぶようになる。
しかし、再び兄と暮らす中で、幼い頃から漠然と抱いていた恐怖の正体が明るみになる。

[感想|ネタバレなし]
昼夜酷使され、口に入るものも少量の穀物をふやかしたものという極限の貧困生活で生存していることに驚く。
貧しさを表す引き出しが多いなぁと感心しつつ、読んでいてゴールテープが見えないまま走らされているような
ストレスと疲労を感じた。なので、(兄の心情を深堀してくれるなど)もう少し読んだ甲斐が欲しいなと思った。

まとめ:「ぼっけえ、きょうてえ」は衝撃のラストに驚かされる

「ぼっけえ、きょうてえ」がずば抜けて面白い。気だるく妖しい雰囲気にもうっとりし、ラストには素直に驚いた。
「密告箱」大人しい人間たちの中にこの箱を置くだけで恐ろしい本性が引きずり出される過程に興奮した。
「あまぞわい」は言い伝えと主人公の境遇がリンクしていく仕掛けが読み応えがあった。
「よって件の如し」が、読んでる最中もあまり楽しめなかった。

「ぼっけえ、きょうてえ」だけでも読む価値あり。最後に驚かされること間違いなし。

本書「ぼっけえ、きょうてえ」は、本の朗読音声を提供しているAmazonのサービスAudible(オーディブル)に収録されています。

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