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怪奇小説傑作集1[英米篇1]あらすじと感想ネタバレなし【9作品】

作品紹介

翻訳平井呈一
レビュー 3.5
発行日初版:1969/02/17 新版:2006/01/31(※)
総ページ数474

※ 1969年の初版から活字を新たに組み替え、
  若い読者に一層親しみやすいものにしたのが
  2006年出版の本書。

ふるかわ

100年以上の昔から輝き続ける名作に出会った喜びで興奮した!
当時の雰囲気を感じながら訪れる恐怖に胸を膨らませる贅沢体験。

(本ページはプロモーションが含まれています)

怪奇小説傑作集1[英米篇1]あらすじ・作家・感想|ネタバレなし【9作品】

怪奇小説傑作集1[英米篇1]には、今から100年前の1800年から1900年前半に発表された小説9作品が収録されています。

  1. 幽霊屋敷             ブルワー・リットン
  2. エドマンド・オーム卿       ヘンリー・ジェイムズ
  3. ポインター氏の日録(にちろく)  M・R・ジェイムズ
  4. 猿の手              W・W・ジェイコブズ
  5. パンの大神            アーサー・マッケン
  6. いも虫              E・F・ベンスン
  7. 秘書奇譚             アルジャーノン・ブラックウッド
  8. 炎天               W・F・ハーヴィー        
  9. 緑茶               J・S・レ・ファニュ

①:幽霊屋敷

オックスフォードに有名な幽霊屋敷があると聞いた主人公の男。
現在、屋敷は貸し出されているが住人は2日と持たず逃げ出してしまうという。

幽霊屋敷で起こるような怪奇現象は生きている人間が仕組んでいるに違いない
という持論持つ男は、勇んで幽霊屋敷に向かい、宿泊の手はずを整えた。
屋敷に足を踏み入れた途端、いつも元気な愛犬は怯えて男の足元から離れず、
ほどなくして物音がし、椅子がひとりでに移動するといった現象を目にする。

夜も深くなったころ、高いところから男を見下ろす視線を感じた。
物憂げな女や腐乱した姿の霊には驚かされたが、凶悪な蛇のようなその視線が男に圧倒的な恐怖心を抱かせた。
壮絶な恐怖に抗い何とか自分を保った男は夜が明ける前に屋敷から逃げ出した。

そして、怪奇現象の震源地として屋敷内の窓のない空き部屋を怪しみ、
屋敷の現在の持ち主と共に空き部屋の床板を外すと人間一人がゆうに行き来できる通路が現れ…。

作者:ブルワー・リットン(英 1803-1873)

一時、神秘学(オカルティズム)に凝って魔法術の奥義に直入したと自称していた。
「幽霊屋敷」はたいていのアンソロジーに入っている有名な作品。
当時、ロンドンのバークレーに実際にあった有名な幽霊屋敷とそこで見られた怪異をモデルに執筆された。
長編「ザノーニ」は輪廻。「不思議な物語」は不老不死の霊薬を扱う恐怖小説。
リットンは恐怖専門の小説家ではないが「幽霊屋敷」一編によってこの分野でも長く記憶される人の一人。

[感想]

幽霊屋敷もののホラーについては子供の頃から映画などで親しんできた程度ですが、本作のような趣向の幽霊屋敷ホラーに初めて出会い、1800年代の作品とは言え、新鮮な驚きでした。ストーリー自体もうれしいことに出し惜しみがなくテンポよく怪異に遭遇しかつ、原因もしっかり用意され説得力あり。楽しかったー。

②:エドマンド・オーム卿

舞台はイギリスのブライトン。
主人公の青年は町でも評判の美しい娘「シャーロット・マーデン嬢」に強く惹かれていた。

ある朝、町の人々やシャーロットと共に教会で祈りをささげていると見慣れない顔の青白い若い紳士を見かける。
すると、マーデン夫人にその紳士が見えたとしてもそのことはシャーロットには話さないよう、と釘を刺される。
後に、例の紳士は「エドマンド・オーム卿」といい、マーデン夫人が若い頃にふった男であると明かされる。

作者:ヘンリー・ジェイムズ(米 1843-1916)

アメリカ近代文学心理派の父と言われる大作家。
心霊現象を扱った小説は18編あり、その中で「ねじの回転」と言われる中編が傑作とされており、
本編「エドマンド・オーム卿」ともに自身で考案した「朦朧法(※)」を取り入れている。

※朦朧法…ひとくちにいえば、全部はっきり書いてしまわずに暗示にとどめておくという手法。

[感想]

このお話は苦手でした。この当時の主流だったのかと想像しますが、
会話が回りくどく、加えて朦朧法が使われているので最初から読むことに対して気が進まない。

③:ポインター氏の日録(にちろく)

文学博士のデントン氏はロンドンの古本市でポインターという著者の日録を購入する。
後にオックスフォード考古会の会員であることが判明するポインター氏の日録には
日々の出来事の他に読書からの抜粋、貨幣やその他出土品などの情報がおびただしく収録されていた。

ある日、日録のページにピンでとめられていた布を目にした同居中の叔母が布の柄を大いに気に入ったため、
デントン氏は染物屋に頼み、柄を複製した布でカーテンを作った。

早速、自室にカーテンを付けたデントン氏だが、カーテンから妙な視線を感じる。
翌日の夜も驚くような怪奇現象に襲われることになる。

作者:M・R・ジェイムズ(英 1862-1936)

恐怖小説の巨匠で古代学博士。
自分の専門研究の古い寺院の建造物、古版画、古書、古蹟などを扱った短編が30編ほどある。

[感想]

個人の日記に曰くつきの布が挟まっているという怪奇ミステリーです。
布の出どころと秘密が明らかになる過程に心が躍り、
主人公のデントン氏の叔母さんが漏らす文句が軽快で面白く読み終えました。

④:猿の手

寒い晩、レイクスナム荘を営む陽気な老夫婦「ホワイト夫妻」と一人息子は、
がっしりした体格のお客人「モリス曹長」の戦争や災害や異国の人たちの、
もの珍しい話や武勇伝を暖炉の前でウィスキーを飲みながら聞いていた。

ホワイト氏はかねてより気になっていた「猿の手」について話してほしいと曹長に頼む。
彼はポケットに手を入れ干からびた小さい片腕を取り出した。
この猿の手は高僧が作り出したもので、3人の人間がめいめいに「3つの願い」を叶えられるように
まじないがかけられている。モリス曹長は自分が2人目であると説明する。

そして、レイクスナム荘の家族が注目する中、猿の手を暖炉に放り投げたのである。
ホワイト氏はとっさに猿の手を拾い上げる。曹長は「散々これには悩まされた。何があっても責任は持てない。」と
ホワイト氏が猿の手を所有することに難色を示す。

翌日、ホワイト氏は1つ目の願い事をする。そして、貧しくも幸せだった家族は悲劇に見舞われる。

作者:W・W・ジェイコブズ(英 1863-1943)

恐怖専門の作家ではないが、「猿の手」はよくまとまった好短編でたいがいの撰集に入っている。

[感想]

冗談半分で猿の手を試しただけの人に重すぎる不幸が訪れます。
うらやましいくらい暖かい家族だったので、この後の出来事にはショックを受けました。
夫婦の壊れ方も「まぁ、こうなるだろうなぁ。」という感じで悲しく、怖かったです。

⑤:パンの大神

真理にたどり着いたと豪語する「Dr.レイモンド」の実験室に呼ばれた友人の「クラーク」。
脳にほんの少し傷をつけるだけで我々の世界を覆い隠しているヴェールを掲げることができる。
今宵、暗中模索の苦心、絶望と失意の長い旅路がやっと終わる、と興奮をあらわにあいながら、
16・7歳に見える女性「メリー」を実験室に呼ぶレイモンド。

「レイモンド、本当に心配ないのか?絶対に大丈夫なのか?」クラークは及び腰の態度を見せながらも
内心は手術後の結果に大いに関心を寄せていた。そして、麻酔が効いたメリーの頭部にメスが当てられ…。

場面は変わり、ウェールズの村に養女として越してきた12歳くらいの少女に関わった子供、
素性不明の女の家で恐怖の表情を浮かべてこと切れた紳士など、奇妙な死を迎えた人々の事例が展開されていく。

生活に困っておらず暇を持て余す男「ヴィリヤズ」は事件を調べる内、偶然にも「クラーク」に関わる。
そしてこの件から手を引けと警告される。人々を不審死に追い込んだ者の正体は、
あの実験に関わる人物なのか…っ!?

作者:アーサー・マッケン(英 1863-1947)

恐怖小説家。32歳で「パンの大神」を出版。
当時は世紀末の新旧思想が混乱していた時期だったので「こんな穢らわしい小説はいたことがない」「作者は狂人か」
酷評を受ける。以降の作品も共通して古代の神や妖精の生き残りのような矮人(こびと)が出てきて淋しい山野や都会の喧騒の中で恐怖をまき散らす、人間が覗くことの許されていない邪神の世界を覗くといった恐怖を主題にしている

[感想]

とても楽しめた。冒頭の手術シーンから狂気の発想と非道徳な行動に震えました。
演説の長さでレイモンドのイカレっぷりもわかりやすく表現されていると思います。
調査を進めるにつれて各事件の欠けていたピースが回収される快感が加速する中、
知り過ぎた人間の身も危なくなっていくんですけど、
その時には読者の私も調査してる側の人間の気持ちでページを進めているので
恐怖に臨場感があるんですよね。最高でした。

⑥:いも虫

ぼくが一時滞在していたイタリアのリヴィエラにあるカスカナ荘が取り壊され、
工場を建設中であるという記事を見た。その別荘がすでにないということになってみれば、
ぼくの見たもの、そして引き続いて起こった出来事を述べようが、だれに遠慮する理屈もなくなったのである。

あれは5月中旬、ジム・スタンリー夫妻に招かれカスカナ荘に着いたときのことである。
入口に一歩入ると、なんとも嫌な感じがした。しかしその時は何が起こるでもなかった。
当時、別荘にはぼくの他にひとり、画家のアーサー・イングリスが滞在していた。
夫妻と共に夕食を囲んでいた時のことである。幽霊の話題になりアーサーは
「幽霊を信じる人間はバカの名にも値しない」と自分の信念を語っていた。

その夜、元来寝つきのいいぼくだが目が冴えて眠れずにいた。
読書でもして過ごそうと、本を置いていた食堂に向かったとき、隣の空き部屋に向かうドアが開いており、
何の気なしに覗くと、信じられないことに部屋の寝台の上を1フィート以上(およそ30㎝以上)ものいもむしたちが
ノソリノソリはっているのであった。

作者:E・F・ベンスン(英 1867-1940)

聖職者の次男として生まれる。恐怖専門の作家ではないが怪奇小説も多数手がける。

[感想]

いも虫ののそのそ、むちむち感の描写は好き。
いも虫がなぜ30㎝以上もあるのか!?含め数々の疑問は解消されず謎のまま。今後、再読することもないと思う。

⑦:秘書奇譚

社長に呼び出された秘書の「ジム・ショートハウス」。
社長は「まだ、君の度胸試しをしてみる機会がなかったな。」と、ある使いをジムに依頼する。

『不仲の共同経営者「ジョエル・ガーヴィー」宅に向かい、
重要書類のガーヴィー氏の名部分を氏が切り取ったのを見届け、重要書類を持ち帰ってくること。』

これが社長の指令である。社長はガーヴィー氏とは20年会っていないため詳しくはわからないが、
ガーヴィー氏はときどき頭がどうかするらしく妙な噂もある。充分に警戒しろとジムは拳銃を渡される。

ガーヴィー氏の住まいは駅から6マイル(およそ9.6㎞)離れた住居のまばらな寒村に会った。
その日は冷たい雨が溶けかけた雪に降りつける寒い日であった。
ガーヴィー氏宅のドアを叩くと猶太人(ユダヤ人)の下男に書斎に通され
ひとりで15分ほど待たされた頃、ガーヴィー氏が現れる。

その後も何かと理由を付けて滞在時間を引き延ばされ、最終列車の時間が過ぎ、一晩宿泊することに。
ガーヴィー氏は徐々に獰猛な本性を現し、ジムは眠れぬ夜を過ごすことになる。

作者:アルジャーノン・ブラックウッド(英 1869-1953)

恐怖小説家の巨匠。
ニューヨークで新聞人として働いた後、イギリスにもどり37歳で最初の短編集「空家」を出版。
以降83歳で没するまで長編約10編、短編は200編ほど執筆した。

[感想]

ガーヴィー氏の自制が揺らぐ様子、本性を現した際の表現が見事。
確かに頭がどうかしており、その原因を掘り下げることはなかったのが残念。

⑧:炎天

絵描きのジェイムズは朝食を終えた後、ふっと画想が浮かび、熱中して筆を走らせた。
絵を完成させたころには午後4時になっていた。

絵づらは裁判長が判決を下した直後の被告席にいる犯人を描いたものである。
犯人の男はとても太っており、剥げている。そして、驚愕し放心状態の表情を浮かべている。

ジェイムズは絵をグルグルと筒に巻くとそのままそれを持って家を出かけた。

途中からどこをどういったという記憶が残っていないが午後7時ごろ、ある家の門の前に立っていた。
何の気なしに門をくぐり、歩を進めると石碑を彫る太った男の後姿を見つける。

そして振り返った男をみてアッと驚いた。その男は今日、ジェイムズが描き上げた被告席の男なのであった。

作者:W・F・ハーヴィー(英 1885-1937)

恐怖小説家。病弱な生涯をもっぱら恐怖小説の執筆に終始した。作品は30編ほど。

[感想]

気になる出来事を描いていただいているのですが、
描いたっきり、種明かしや恐ろしい真実にたどり着く、といったこともありません。
どう楽しめばよいかわからなかったです。

⑨:緑茶

医者のヘッセリウス博士がイングランドを漫遊中に出会った患者の診療記録。

ジェニングス牧師とはある晩、少数のパーティーに参加した時に出会う。
背の高い痩せた中年男で謙虚と慈しみに溢れた様子に好感を持てた。
彼はある症状に頭を抱えていた。自分の聖職には積極的に働こうとするも礼拝の途中で突然、体調を崩すという。
症状が現れるようになったのは3年前、古代宗教の研究を始めた頃だったという…。

作者:J・S・レ・ファニュ(アイルランド 1814-1873)

恐怖小説家。「緑茶」はたいていの傑作集に入っている。
本著に収録の「ポインター氏の日録」作者「M・R・ジェイムズ」は
「レ・ファニュ」の作品を「かつて英文で書かれた怪談作家の中の第一級に位する人」と称する。

[感想]

話の長さに対する苦痛が話への興味を上回ってしまった。
牧師が研究中によく嗜んでいたのが濃い緑茶だった。

著:アルジャーノン・ブラックウッド, 著:ブルワー・リットン, 著:ヘンリー・ジェイムズ, 著:M・R・ジェイムズ, 著:W・W・ジェイコブズ, 著:アーサー・マッケン, 著:E・F・ベンスン, 著:W・F・ハーヴィー, 著:J・S・レ・ファニュ, 翻訳:平井 呈一
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