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W・H・ホジスン「夜の声」あらすじと感想ネタバレなし【作家の人生から綴られた物語】

作品情報

作者W・H・ホジスン(英 1877/11/15-1918/04/17)
翻訳井辻 朱美
レビュー 5.0
発行日1985/08/28
総ページ数253
ふるかわ

船員経験のある著者が綴る
恐怖と大興奮の幻想海洋アドベンチャー!!

(本ページはプロモーションが含まれています)

W・H・ホジスン「夜の声」あらすじと感想(ネタバレなし)

「夜の声」には下記8話が収録されています。

  1. 夜の声
  2. 熱帯の恐怖
  3. 廃船の謎
  4. グレイケン号の発見
  5. 石の船
  6. カビの船
  7. ウドの島
  8. 水槽の恐怖

①夜の声

星がなく靄(もや)が立ち込めた凪の太平洋。
ものうい風のないまま、3名の乗組員を乗せたスクーナー(帆船)は一週間もの間、海上を漂っていた。
見張りのため甲板(かんぱん)に立つ「ジョン」は思いもかけないことに驚く。
なんと、広い太平洋上で乗組員以外の男の声が響き渡ったのだ。

「スクーナー、おおい!」 

声の主は靄(もや)の中から食べ物を分けてくれるよう頼んできた。
いまだ靄に隠れたままの声の主を確認しようとランプの灯を向けると、男はひどく怯え姿をくらまそうとする。
姿が見えないよう明かりを消し、食料を入れた箱を降ろしてやると男は感謝し、
自身が、6か月前に嵐に遭って難破した船の乗客であると明かしてくれた。

沈みゆく船から脱出し婚約者と共にいかだで漂流後、大きな廃船を発見して忍び込み、
食料を調達して生きながらえたこと。その廃船には人はおらず、船自体が「あるもの」に侵食されていたこと。
そして二人は追われるように廃船を後にし、近くの島で見た、世にも恐ろしい光景を目の当たりにしたことを語った。

【感想】
体がじわじわとあるものに蝕まれ、日ごとに容姿も変貌していく恐怖を描いた作品です。
船の難破により死ぬことなく、船から無事脱出し食料も手に入れ生きながらえたことは
果たして幸運だったのかどうか…。ストーリー自体はシンプルではあるも、
誰も経験することのない災難に遭遇した人間の貴重な体験談と、付きまとう絶望を感じられる味わい深いのお話。

②熱帯の恐怖

船上で浩々たる月光を浴び、そびえ立つ「それ」の重みに船体は傾き、
長く太い触手は悲鳴をあげる水夫をからめとった。
そして捕らえた獲物をグシャグシャと胸の悪くなる音を立て咀嚼した…!?

四本マストの帆船「ヒスパニオラ号」は突如として海から現れた怪物に襲われる。
船員たちは船室に立てこもるも、うだるような暑さの中、
水分不足にあえぎ部屋から出た者から1人、また1人と怪物の餌食になっていく…。

類を見ない圧倒的な捕食者に狙われ続ける、船上での悪夢の数日間を描く。

【感想】
突如、海から現れた怪物が船上に乗り込み、旺盛な食欲で船員を襲う話。
死闘は一瞬では終わらず、息を殺して怪物が立ち去るのを待つのですが
蛇のような執念深さで船上に居座り続けます。
主人公は立てこもった船室の窓から船上の様子を窺い、
その際に怪物の動きや体の一部が見え、徐々に怪物のおぞましい全容が明らかになります。
寿命を縮めるレベルの緊張感がたまりません!

③廃船の謎

四本マストの商船「タラワク号」はメキシコ湾を航行のさなか、遠方に廃船を確認する。
タラワク号が見守る中、小型の帆船が廃船に追突。船上で何発か発砲。後に動きはなく救難信号もない。
タラワク号は数名の船員によりボートで追突した帆船と廃船の調査に向かう。

帆船は全くもぬけの殻であった。
つぎに、漠然としたおぞましさを漂わせている廃船に侵入した乗組員たちは
船内に棲みついていたあるものに猛追され死に物狂いで廃船から逃げ出す。

【感想】
相手が本気で追いかけてくるので船員も本気で逃げるんですよ。
その際の必死さ、パニック状態とスピード感に手に汗握ります。
帆船で発砲があったのに人の姿がない。この謎も後に解け、ミステリー要素も楽しめます。

④グレイケン号の発見

叔父が亡くなり、莫大な財産を相続した男は
相続の一部である二百トンほどの見事な縦帆式ヨットによる航海を計画する。
そして、友人の「ネッド」を勇気を出して航海に誘ってみた。

ネッドの婚約者は1年前に消息を絶った「シップ型帆船グレイケン号」に乗船しており、
未だに無事を信じているが、沈鬱な様子で、見ていていたたまれなかった。
ネッドの気分転換にもなるだろうと、声をかけたが、驚くことに快く承諾してくれた。

航行を開始するとネッドの船に関する知識の深さに驚かされた。船員たちともずいぶんと親密になっており、
気が付けば男は幽閉され、ネッドは船を乗っ取り、グレイケン号が消息を絶った場所に航路をとっていた。

奇跡的に発見できたグレイケン号の船上には生きている乗客を確認でき、その中にはネッドの婚約者の姿も…っ。
しかし、グレイケン号の周りは海藻で覆われており救出用のボートはなかなか進まない。
おかしなことにオールを引っ張られるような感触もある。そして、海藻が浮かぶ水面が大きく揺れたかと思うと
グレイケン号の乗客が騒ぎ出し、水面から息をのむ存在がそそり立ち、ボートに襲い掛かってきた…っ!?

【感想】 
友人のヨットをジャックするなんて、なんという友人!?
船員も懐柔しちゃうし有能すぎる。
そんなハイスペック「ネッド」を凶行に走らせるほど愛されてるヒロインがうらやましい。

⑤石の船

あれは、私が「アルフレッド・ジェソップ号」という小さな帆船の乗組員であったときに出くわした奇妙な出来事だ。

見張りについているときに小川が山腹を流れる音がした。千マイル四方に渡って小川があるはずなどないのに、だ。
船が進むと、なんと、デイヴイ・ジョーンズ(海の悪霊)の船と見まごう泥まみれの石の船が
悪臭を放ち浮かんでいた。川の流れと思った音はこの船の船体の裂け目から流れ落ちる水の音だったのだ。

船長含め数人がボートに乗り石の船に潜入した。
調査を進めると次々と信じられない奇怪な光景が目に飛び込んでくる。

そしてそのときの出来事が私の運命をガラリと変えたのだった。

【感想】
海上で起こる奇妙な自然現象のオンパレード!「船体の裂け目から流れ落ちる水」そして石の船の中で発見する不気味で息をのむ現象は説得力のある解説で、ちゃんと謎を紐解いてくれます。もう最高です!

⑥カビの船

老船医は喫煙室で若い船員に生命の定義について気づかされた出来事を語る。

あれは、シナ行きの帆船「ベオプテ号」に乗り合わせたときのことだった。
ひどい悪天候にみまわれ斜檣(船首の前に突き出た円材)はへし折れ、船体は歪み、
裂け目から水が3フィート(およそ91.4cm)ほどの深さまで入り、ボート2艘と豚小屋が流された。

天候が回復すると遠方に妙な船を発見した。造りからもかなり古い廃船でとっくに沈んでいてもおかしくない。
帆桁は腐って一本も残っておらず、船体は白い何かで覆われている。

ベオプテ号の修理が済み、6人程度でボートに乗って廃船に向かった。
オールからは水のネバネバした感触が伝わり、廃船に近づくにつれ粘度が高くなった。
廃船には幸運なことに豚小屋が流れ着いていた、のちの回収を計画に入れ船員は廃船の調査に取り掛かった。

船内中が薄汚れた白いカビに覆われていた。ぶよぶよしたカビには紫がかったシミやすじが入っており、
驚いたことに人間の体重で歩いてもへこむだけでプリンやスポンジのような感触がした。

そして、獲物の侵入に触発されたのか、カビはさざ波のように振動し、私たちを飲み込もうと襲い掛かってきた。
ある者は冷静に脱出を試み、あるも者は発狂し世にも恐ろしい声をあげていた。
ボートにたどり着いた船員たちは、本船への逃亡のさなか、不気味にうごめく廃船を目の当たりにする。
その様子はまるで…っ!?

【感想】
「カビに蝕まれそうになった。怖かった。」だけで話を終える物語もあると思うんです。
ですが作者は「生命とは」というテーマとラストに見せる光景で話をさらに盛り上げている。
すごい!廃船のビジュアルには本当に驚愕します。

⑦ウドの島

キャビン・ボーイの「ピビー・タウルス」は武骨で愛情表現の下手な「ジャット船長」が聴かせてくれる、
宝、怪物、美女、が登場する不思議な話が大好きだった。

航海中、水平線にポツンと浮かぶ島を見つけ、冒険の予感に胸を高鳴らせるピビー。
ジャット船長はボートで接岸するといい、ピビーにオールを持たせた。二人は島の砂浜につき
「いつでもボートを出せるようにしておけ」と言い残したジャット船長は森の中に入っていった。

島は中央が盛り上がっており、頂(いただき)が平らな低い丘になっていて、大木の森がびっしり覆っている。

長い事待っていると、遠くから小枝が一斉にさざめき、パキパキと折れる音、
人間のものならぬ吠え声、奇怪な遠吠えと船長の銃の音が2発聴こえた…っ。

異様な事態に身を固くしていると必死に走る船長が森から出てきた!
そして船長の背後には裸に近い格好の荒々しい女たちがたてがみを振り乱して追って来たのだった!?

【感想】
ピビーとジャット船長が降り立った島にはまさに「宝、怪物、美女」が存在します。
バイオレンス&アクション!恋と勇気がつまった大冒険ストーリー!!楽しかったー!!

⑧水槽の恐怖

東海岸のとある町の郊外に高々とそびえ立つ巨大な鉄の水槽があった。

溜められた水は近隣の別荘の生活用水として利用される。
水槽の上は蓋があり、道も通され人々の憩いの場となっていた。

そんな水槽の上で、恰幅の良い老紳士が倒れているのを通りかかった男女が発見する。
老紳士は妙なねじれた格好で横たわり、どう見ても明らかに絶命していた。

遺体から財布と金時計が持ち去られていたことで強盗殺人と推理されていたが、
検死に立ち会った医師は人間業とは思えない殺害方法から別の可能性を疑い、独自の調査を始める。

【感想】
今までの話からは引けを取るが、他にもホジスンが書いた怪物が出てくる探偵ものがあればぜひ読みたい。

W・H・ホジスン「夜の声」用語解説

本著は丘の人間には馴染みのない船の部位の名称などが出てきます。
わからなかった名称や言葉の説明を載せるので、本著を手に取った際
ストーリーをスムーズに読むのに役立ててほしいです。

①夜の声

(※読み進めて印字されている順に表記します。)

舵柄(だへい・かじづか)…船の後方、舵を回すときに握る、舵に取り付けてある取っ手。
船首…船の前の部分。先端部は「舳先」(へさき)と呼ばれる。
艫(とも)…船の後ろの部分。
スクーナー…帆船の一種。二本以上のマストに縦帆のついたもの。
甲板(かんぱん・こうはん)…船の上部にある鉄板や木板を張り詰めた床のこと
櫂(かい)…人力により船の推進力を得るための道具。長い棒状の部分を持ち、一端の平らな部分を水に入れ漕ぐ。
鉤(かぎ)…先が曲がった棒状の金属製の器具。曲がった部分を何かに引っ掛けて使う。フック。
罐(かま)…読み方がわからなかったので書いておきます。

②熱帯の恐怖

一尋(ひとひろ)…両手を左右に伸ばしたときの、指先から指先までの長さ。(1.5~1.8メートル) 
舷牆(げんしょう)…船の甲板のかこい。 鋼板製で、人の転落、波浪を防ぐもの。
舷窓(げんそう)…船の船体にある小さな窓。採光と換気の役目を持つ。一般に丸い窓が多い。
檣帆(しょうはん)…帆を張るための柱。

③廃船の謎

船尾楼(せんびろう)…船尾にある、上甲板より一段高い船楼。構造物であり、船室の屋根が甲板として成形されたもの。
堤(つつみ)…川や池などの水があふれ出ないように、岸に土を高く築き上げたもの。土手。
マイル…1マイルはおよそ1.6キロメートル。
折半直(ドッグ・ワッチ)…16:00から20:00のこと。
六点鐘…船の上で時を知らせたり、その他の伝統的な機能に使用される鐘のこと。一~八点鐘まである。
斜檣(しゃしょう)…船頭から伸びている円柱。
ヤード…1ヤードはおよそ0.9メートル
喫水線…船が水上に浮かんでいるときの水面と船体との交線。
索どめ…ロープを固定するための装置。
車地棒(キャプスタン・バー)…人力で綱を巻き上げる大きな轆轤(ろくろ)を回す際に掴む棒(おそらく)。
リーグ…1リーグ = 3マイル = およそ4.8キロメートル。
    海上では1リーグ = 3海里(ノーティカルマイル)を使うこともある。

⑤石の船

火酒…蒸留してアルコール分を多くした酒。ウオツカ・ウイスキー・ブランデー・ジン・焼酎(しょうちゅう)など。

「カビの船」以降はすでに説明した名称や単語が出くるので、理解の上で話を読み進められると思います。

まとめ:「夜の声」は作家の人生から綴られた物語

ウィリアム・ホープ・ホジスンは13歳で父を亡くし、8人兄弟を養うべく外洋航行の帆船の給仕として働く。
最悪な人格の先輩の体罰を受けながら22歳まで、およそ8年間、海で生活した。

ホジスンの経験に裏打ちされた海洋での異常現象の描写は知的好奇心を大いに満足させてくれる。
謎の多い海にうごめく未知の怪物たちには肝を冷やしつつも、圧倒的なパワーに興奮を覚えた。

ストーリー上で状況把握がしづらく読みにくいところもあるが
まさに大スペクタクルの海洋パニックアドベンチャーである本著で最高の読書体験を味わってほしい。


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